禅宗では心が安定した「禅」の状態を目指す仏教の一派。
主に臨済宗・曹洞宗・黄檗宗といった宗派を、まとめて禅宗と呼んでいます。
「禅宗は知っていても宗派のことは知らない」という人も多いのではないでしょうか。
そこで当記事では【禅宗の歴史と3宗派の特徴について】ご説明します。
禅宗が日本文化に与えた影響についても解説しますので、ぜひご一読ください。
意外と知らない禅宗の歴史
6世紀前半、インドから中国にやって来た達磨によって、禅宗は始まりました。
禅宗が日本に伝わったのは鎌倉時代初期。
臨済宗の開祖・栄西が宋(中国)から帰国した1191年に、日本の禅宗が始まります。
続いて1227年に曹洞宗の開祖である道元が宋から帰国します。
道元は坐禅のやり方や心得を書いた「普勧坐禅儀」を記したり、京都に興聖寺を建立したりと、禅宗の布教を行いました。
それから400年ほどがたった1654年に、日本から招かれ、臨済宗の僧・隠元隆琦が来日。
隠元隆琦は黄檗宗の開祖ですが、当時は臨済宗黄檗派と名乗って活動していました。
1876年に臨済宗黄檗派は黄檗宗と名乗るようになり、禅宗の宗派の1つとなります。
禅宗が影響を与えた日本文化とは
ここからは禅宗が日本に与えた影響を解説します。
建築
禅宗の様式で建てられた建物を禅宗様と言います。
禅宗様は当時の中国建築を真似したもので、13世紀後半から盛んになりました。
現存する禅宗様の建物には栃木県足利市の鑁阿寺や神奈川県鎌倉市の建長寺などがあります。
茶道
平安時代にはお茶を飲む習慣が始まっていましたが、いわゆる「茶道」を伝えたのは栄西です。
また道元は「永平清規」という書物を書きましたが、その中にお茶の作法について説いた「茶礼」があります。
絵画
水墨画は禅宗と同時期に、蘭渓道隆などの禅僧達によって、中国から日本へと伝えられた絵画の新様式です。
日本の水墨画は中国の牧谿を手本とし、室町時代になると雪舟や俵屋宗達によって日本の水墨画が完成しました。
仏教学者の鈴木大拙に紹介され、禅宗の思想は海外に知られるようになります。
鈴木大拙はケンブリッジ大学やハーバード大学で仏教の講義を行いました。
「ライ麦畑で捕まえて」で有名な作家、サリンジャーも禅宗に興味を持った1人。
「フラニーとズーイ」「テディ」などに禅宗の影響が残っています。
禅宗に含まれる3つの宗派について
臨済宗の特徴と修行方法
特徴
臨済宗は自分の仏性に気づき、悟りに至ることを目的としています。
仏性とは「人が生まれつき持っている、仏としての性質」という意味です。
悟りは師匠から弟子へと伝わるとしていますが、言葉では伝えられないと臨済宗は考えています。
そのため特定のお経を特別に扱うことはなく、幅広い種類のお経を読みます。
- 般若心経
- 観音経
- 金剛般若経
- 坐禅和讃
など。
本尊も特に存在せず、釈迦如来や大日如来、達磨大師などを祀っています。
お経や修行ではなく、坐禅で悟りを開くという点で
臨済宗は鎌倉時代や室町時代の武士から人気を集めました。
修行方法
臨済宗の修行方法は看話禅と禅問答で、どちらも公案が関わる修行方法です。
公案は弟子が悟りを開くための手がかりとして示す、歴代の僧達の行動や発言のこと。
看話禅とは、坐禅をしながら公案について考え、自分なりに理解していくことで悟る方法です。
そして師匠が公案について「なぜか」と質問し、弟子が答えるやり取りを禅問答と言います。
臨済宗の修行では、正しい姿勢で坐禅をすることも大切ですが、公案に取り組むことをより重要視しています。
曹洞宗の特徴と修行方法
特徴
曹洞宗では、僧侶が修行によって悟り仏となることはありません。
むしろ修行そのものが仏の行いであると考えており、真剣に修行を行っていることが、既に悟りなのです。
つまり悟りに終わりはなく、初心者やベテランといった区別もありません。
曹洞宗でよく読むお経は
- 般若心経
- 大悲心陀羅尼
- 舎利礼文
- 観音経
など。
本尊は仏教の開祖である釈迦如来です。
しかし曹洞宗はお寺ごとの思想を大切にしているため、他の仏を本尊としているところもあります。
修行方法
臨済宗の看話禅に対し、曹洞宗は只管打坐という方法で修行をします。
只管は「ただひたすら」、打坐は「座ること」という意味。
つまり只管打坐とは一切の物事を考えず、ただ黙って座り続けることによって、仏性が現れるとする座禅のスタイルです。
また曹洞宗では日常の家事や仕事も、修行の1種とされています。
道元が定めた「永平清規」という集団生活のルールには、「典座教訓」「赴粥飯法」といった、料理や食事の作法があるほどです。
坐禅している人の肩に叩きつける棒を、曹洞宗では警策と言います。
一方、臨済宗と黄檗宗では「けいさく」と呼びます。
黄檗宗の特徴と修行方法
特徴
黄檗宗は臨済宗と曹洞宗に比べると新しい宗派です。
隠元隆琦が住んでいた中国のお寺の近くに生えていた、黄檗という植物が宗派の名前の由来です。
黄檗宗の特徴は、他の2宗派より中国の影響が強いこと。
例えば黄檗宗では般若心経をよく読みますが、日本語ではなく中国の発音で、リズミカルかつ歌うようにお経を唱えます。
その他にも建築物や、葬儀の終わりに食べる「普茶料理」なども中国明代の様式です。
本尊は釈迦如来ですが、観音菩薩を祭る地域もあります。
修行方法
黄檗宗には「この世には心しか存在せず、全ての物事や出来事は心の働きによる」「仏すらも心の中にいる」という考えがあります。
この考えを「唯身の浄土、己身の弥陀」と言います。
極楽も阿弥陀仏も、人の心の中にあるのです。
黄檗宗は中国明代の臨済宗から生まれた宗派であり、修行方法もあまり変わりがありません。
看話禅や坐禅を重視しているというところが、黄檗宗と臨済宗の共通点です。
臨済宗との違いは念仏禅です。
念仏禅は坐禅をしながら「南無阿弥陀仏」と唱える修行方法で、看話禅や坐禅と並ぶ大切な修行なのです。
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まとめ
今回は【禅宗の歴史と3宗派の特徴について】について解説しました。
1つにまとめられがちな禅宗ですが、宗派によって思想や修行方法、お経の発音など様々な違いがありましたね。
禅宗の教えや文化に興味を持った方は、お近くの禅寺に参拝してみてはどうでしょうか。
中には修行体験が可能なお寺もあるので、禅宗に対する理解をより深めることが可能です。
心穏やかに坐禅を組めば、新たな気付きが生まれるかもしれませんよ。
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